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第16回:ベスタクス株式会社 取締役デザイン部長
平林孝介さん
~イメージと現実を橋渡しする3Dの力~
【2010年01月22日】
Shadeを使ったプロダクトデザインで何度もグッドデザインを受賞しているデザイナー・平林孝介さん。音響機器開発のリーディングカンパニー・ベスタクス株式会社で活躍をする平林さんに、Shadeの役割からデザインへのこだわり、さらには幼少期の思い出話まで、熱く語っていただきました。
(聞き手:たきざわ イーフロ文芸部)
Shadeでデザインするとウソがない
――Shadeをデザインに使おうと思ったきっかけは何でしたか?
金沢に友人がやっているデザイン事務所があって、そこに遊びに行ったときにShadeを使っているのを見て「これはいいな」と思いました。16、7年くらい前だったでしょうか。当時は大手でも3Dを使っているデザイン事務所はほとんどありませんでしたが、見た瞬間に「これはいける」と直感したんです。
私も個人デザイン事務所を開いていたのですが、当時175万円だったShadeとMacとレーザープリンタなどを合わせて400万円以上のリースを組みました。まさに清水の舞台から飛び降りるような気持ちだったことを今でも覚えてます(笑)
――実際にShadeを使ってみてどうでしたか?
数日で、基本的なモデリングはできるようになりました。とにかく、ベジェで自由に思い通りの曲線を描けるのが何より良かったですね。
もともと手描きでデザインをしていたのですが、手描きで格好いい線が引けても、立体にすると矛盾があってその通りの線が出ないこともあります。その点、Shadeを使ってデザインを詰めていく過程では、ライティングやカメラアングルを変えながら、思い通りの曲線が実現できているかを確認しながら形状の調整ができるので、本当に重宝します。Shadeで作ったデザインは、ウソがないんですよ。
――すると、今はShadeだけでデザインを?
「写真を撮られるなら、もうちょっと綺麗な絵を持ってくれば良かった」と笑いながら見せてくれた平林さんの手帳のラフスケッチ。
いえいえ。まずは、やっぱり手描きなんです。
頭の中でもやもやしているものをいったん形にするには、手描きが一番ですね。どうしてもアナログから入ってしまうのは、歳のせいなのかな(笑)
とにかく、人に見せるためではなくて、自分の頭の中身を整理するために、ラフなスケッチを必ず手描きします。手描きで頭の中が整理できたら、いよいよShadeの出番です。作って、曲線を確認して、調整して、を繰り返します。
プロダクトデザインは、最終的に製造する都合上CADエンジニアとの連携が欠かせません。CADエンジニアが完成した形を想像しやすいのも重要なので、さまざまな角度から作ったレンダリング画像も、他ソフトと連携して抽出したラインのDXFファイルも、ぜんぶまとめてCADエンジニアに渡します。
とにかく、あの手この手で自分のイメージを伝えることが大切なんです。
グッドデザイン賞を連発するデザインの秘訣
――5度もグッドデザイン賞を受賞したとお聞きしましたが。
まだまだ。もっと狙いにいきますよ(笑)
新製品のDJシステム「Spin」は、iTunesライブラリーを使って気軽にDJプレイを楽しめる製品です。おかげさまで、この11月にアメリカのアップルストアで2日間の先行発売セールで2,000台近く売れた人気商品となりました。
もちろん機能も素晴らしいのですが、デザイナーとしてはやっぱりデザインにも注目してもらいたいので、この製品でもグッドデザイン賞をとりたいですね。
細部にわたる平林さんのこだわりが忠実に再現されたSpinのつまみ。
――デザインする際のこだわりはどのようなところでしょうか?
大前提には、概念的な製品コンセプトを研ぎすまされた唯一無二の形に表現することですが、実際の作業では曲線です。とにかく格好いい線、美しい線を生み出しきたいと思っています。
たとえば、Spinのつまみ部分。Shadeでボックス形状を立ち上げたあと、ゆるやかなRをつけて全体の形を作ります。さらに、別の曲面をつくって、ブーリアン演算で形状を削ります。この際に生み出される曲線がいかに美しいかが勝負なんです。
全体の輪郭からこうした細部まで、曲線の美しさにどこまでこだわり続けられるか、それがポイントだと思います。曲線の完成度を上げるために、Shade上で確認できることは非常に重要なんです。
あとは、全体のバランスですね。パーツがきれいにできていても、全体の中で調和がとれていないと意味がありません。もちろん、全体のバランス確認のためにも、Shadeは欠かせないツールになってくれています。
――これからプロダクトデザインを目指す若者に、アドバイスをお願いします。
アドバイスなんて、ちょっとおこがましいですが……言えるとしたら、「観る」ことの鍛錬を重ねてください、ということでしょうか。
漠然と見ているだけでは気づかないようなものが、世の中にはたくさんあります。もしデザイナーを目指すなら、格好いいものを見てなんとなく「格好いいなぁ」と思っているだけではダメなんですね。どの部分が格好よく見えるのか、なぜ格好よく見えるのか、その背景にある文化やテクノロジーも踏まえ、フォルムや構造を詳細に観察して、論理的に考えなくてはいけません。日ごろからそれができるように訓練をしておけば、将来必ず役に立ちます。
あとは、実際に手で触る感覚を忘れないで欲しいですね。最終的に実体のあるものを生み出す仕事ですから、格好いいものに沢山触れ、また手描きをしたり模型で見本を作ったり、とにかく手の感触と3次元の仮想空間とのイメージギャップを少なくする訓練が必要だと思います。
なんて、偉そうに言ってていいのかなぁ。仲間から「あいつは口先ばっかりだ!」って叱られそうです(笑)
デザインへの見ざめは幼稚園!?
――口先ばっかりなんですか?(笑) 実際、平林さんご自身が「観る」ことの重要性に気づいたのは、何歳くらいだったのでしょうか。
それが、よく覚えていないんですよね。ちっちゃい時から、反射的にそういう観かたをしていたみたいなんです。
道端に落ちている小石を「この曲線が格好いい!」と思って家に持って帰って、ずっと観てるんです。そのうちに、ここの曲線はもう少しこうしたほうがいいな、とか、自分でいろいろ考えるようになって。母親には「コタツに入ってじっと石を眺めてばかりいる子供だった」とよく言われましたよ(笑)
たぶん幼稚園か小学校の低学年くらいのことだと思うんですけど、当時はおもちゃとかもほとんどない時代でしたから。
――実際にデザイナーになろうと思ったきっかけは?
それも、よくわからないんです。なんとなく自然に、モノ作り、それも曲線の美しさを追求するような仕事に就くんだろうな、というか、そういうことしかできないんだろうな、と思っていましたから。あまり深く考えることもなく大学のプロダクトデザイン科に進学しました。先生は日本の工業デザインの草分け的な、とても厳しい人でしたね。
昔はパソコンなんてなくて、なんでも手描きでした。レタリングの授業では、文字と文字の間を「髪の毛1本ぶん詰めろ」と(笑) それで、最初から描き直しです(笑)
――髪の毛1本って、そんなわずかな差なんてわかるものなんですか?
先生に鍛えられたおかげで、わかるようになりましたよ。でも、最近は歳をとって目が弱くなってきたので、もう無理かな(笑)
それでも、ついこの間、ウチの若いデザイナーが作った製品シルクの文字の段組を見て、一箇所だけちょっと低いように思ったので、揃っているはずだと言うのを無理に確認させたんです。そうしたら、やっぱり、ほんの少しだけ低かったんですよ。私もまだまだやれるな、と思いました(笑)
――これからのご活躍も楽しみにしています。本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
アーティストプロフィール
平林孝介
1954年長野県生まれ。神奈川県在住。金沢美術工芸大学工業デザイン科卒。ギターメーカー勤務の後1989年有限会社平林デザインスタジオ設立。2007年よりベスタクス株式会社役員兼務。
関連リンク
ベスタクス株式会社:http://www.vestax.jp/
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