第4回 HDR画像を使ったレンダリングの初歩
第4回 HDR画像を使ったレンダリングの初歩
みなさまこんにちは。「開発部より」第4回です。
Shade 12では、多くのプリセットが用意されており、20点以上の実写の背景素材が追加されています。また先月からは、背景素材を一つずつ購入できる販売ページも開始しました。
これらの実写素材はHDR画像として作成されているため、単なる映りこみ用の背景として使えるだけではなく、パストレーシングによる大域照明を使ってレンダリングする際に、特に威力を発揮します。今回は初心者向けに、Shade上で簡単にHDR画像を使うためのポイントを、数点に絞って解説します。
※ HDR画像とは、JPGやPNG、BMP画像と比べて、より豊な諧調を再現できる画像ファイル形式です。Shadeでは、HDR形式、OpenEXR形式のファイルを扱うことができます。
基本の設定
以下のようなテストシーンを作ってみました。背景素材は、ShadeExplorerから、Shade 12に添付の「Parking_space_1.shdbgr」 を使っています。ダブルクリックして適用しただけでは、大域照明の設定はされてませんので、レンダリング設定の「大域照明」タブで、「パストレーシング」を選択します※1。また、背景パレットで、「光源としての明るさ」が0以上に設定されていることを確認してください。このシーンから始めて、なるべく簡単な設定で、よりリアルな結果を目指します。
※1 Shadeではパストレーシングの設定が、「レンダリング手法」と「大域照明」の2カ所にあります。 ここでは「手法」については「レイトレーシング」のままにしました。もちろん、パストレーシングの方が再現度は高く、「被写界深度」や「ソフトシャドウ」 など、レイトレーシングには対応していない機能を使用することができるのですが、その代わりにレンダリング時間が長くなってしまいます。本シーンのように、それらの機能を使用しない場合、あまり結果に違いでないこともありますので、まずは「レイトレーシング」のままにしておくことをお勧めします。
無限遠光源の扱い
光源設定の中で、「環境光」は直接光以外の影響を”近似的に”表現する手法です。ですから、特に大域照明で十分な結果が得られるような場合は、なるべく「環境光」は使わないようにします。
環境光をゼロにして、光源の方向を調整
本来は無限遠光源自体もあまり必要ないのですが、実際には完全に無限遠光源をHDR画像で代用することは困難です。影や、細かい部分の陰影を再現することがどうしても難しくなってきますので、バランスを見て、無限遠光源の明るさや方向を調整します。※2
※2 今回のシーンは屋内を想定していますので、実際には無限遠光源ではなく面光源を使ったほうが良いかもしれません。無限遠光源の影のソフトネスを設定したり、面光源を使えば、影がボケるようになります。ここでは、簡単に無限遠光源で済ませています。
ガンマの設定
ここは、少し難しい話になってきますのでポイントだけ説明します。実は、画像をディスプレイで表示する際、画像データと表示される明るさには違い があり、この特性をガンマ特性といいます。Shadeのレンダリングでは、初期設定でガンマ1.0ですので、特に、写真素材のHDR画像などを使っている 際には、どうしてもリアルな結果を得られなくなる場合があります。Shadeでは、『色補正ウィンドウ』にてレンダリング結果のガンマ値を指定することができ、このガンマ設定を、モニタ(出力先)のガンマに合わせて 2.2にします。※3
ガンマ2.2に設定
※3 この設定はスライダでは2.0までしか入力できませんが、数値入力ボックスをクリックすることで、直接、値を入力することができます。
また、ガンマの設定を変えると、どうしても中間色の色合いが白っぽくなってしまいます(背景の微妙な色合い部分など)。「彩度を変えない」チェックボックスをオンにすることで、色合いをそのままに保つことができます。
「彩度を変えない」チェックボックスをオンに
今回は、色補正ウィンドウのガンマ設定を使って調整しましたが、この方法では、レンダリング画像全体の色合いが明るくなってしまい、全体的にコントラストの低い画像になってしまうこ とが気になるかもしれません。また、レンダリング画像を全体のガンマ設定が変わってしまうということは、テクスチャ設定や色指定などが全て一斉に、変わっ てしまうことになり、場合によってはシーン全体の設定を見直す必要が出てくることもあります。そういったことが気になる場合は、Shadeのガンマ設定は 1.0のままにして、背景のHDR画像のみを、画像処理ソフトの露光調整などで調整する方法も有効です。
その他の設定
床に使っている線形状に「シャドウキャッチャー」を設定すると、その形状自体はレンダリングされずに、そこに映っている影のみをレンダリングすることができます※4。ただし、シャドウキャッチャーを使用すると、そこに投影される影の部分には大域照明の効果が考慮されず、影が真っ黒になってしまいますので、無限遠光源の「影」の値を調整して、影を薄くしています。
シャドウキャッチャーを設定し、無限遠光源の影を薄くした状態
※4 デフォルトではこの設定項目は表示されていません。ブラウザの右下か左下に表 示されている三角のボタンをクリックして表示される領域にて右クリックし、表示されるメニューにて「シャドウキャッチャー」チェックボックスをオンにしま す。すると、ブラウザに設定ボタンが表示されるようになります。この状態で、設定したい形状の右にあるシャドウキャッチャー設定欄をチェックします。
結果の比較
いかがでしたでしょうか?今回は、最も簡単にHDR画像を使う設定方法を、かなりポイント絞って紹介しました。ほんの数点の設定変更しただけです が、より臨場感がアップしたのではないでしょうか。本当は、表面材質や、ライティングなど、もっと考慮すべき箇所があるのですが、おいおい説明していけれ ばと思います。
レンダリング設定を大域照明にしただけの画像(左)と、今回の手順をすべて設定した画像(右)
今回は簡単な設定のみ紹介しましたが、もっと複雑なシーンや、密閉された室内のような間接照明が多くあるような場合はやはり、HDR画像による照明 だけでは不足しますし、レンダリング時の画質を上げないとノイズが目立ってしまうこともあります。以下のような設定を試してください。
- パストレーシングの「キャッシュトレランス」を調節する (大域照明のイラディアンスキャッシングに関する設定。キャッシュトレランスを下げると、陰影がシャープになりますが、ノイズが増えます。その場合、「キャッシュの品質」を併せて上げてください。)
- 手法を「レイトレーシング」ではなく、「パストレーシング」にする。(被写界深度、「影のソフトネス」、反射・屈折する物体の「荒さ」、などがレンダリングに反映されるようになります。)
- 「レイトレーシングの画質」を上げる。(面光源、被写界深度、影のソフトネス、荒さなどのクオリティが上がります)
これらの設定を上げると、同時にレンダリング時間も多くかかってしまいます。バランスを見て設定してください。
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