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第18回:マンガ家 寺沢武一先生
~心さえ新しければアイデアはいつでも生まれる~
【2010年12月14日】
日本の「デジタルマンガ」の生みの親、マンガ界の大御所である寺沢武一先生の仕事部屋にお邪魔しました。いつまでも熱くて格好いい男、寺沢先生の生の声をお届けします。
(聞き手:たきざわ イーフロ文芸部)
影響を受けた作品は「すべて」
――メディアファクトリーから刊行されている本、とってもいいですね。寺沢先生の絵を全ページカラーで観られるなんて、すごい贅沢な経験でした。「マジックドール」なんてラストの展開も素晴らしくて、大感激です。
僕はカラーにこだわってるんだ。昔の作品にまでさかのぼって、すべてカラーにしたいくらいだね。「マジックドール」については……まあ、僕はラブストーリーを描くのが好きなんだよ。映画のラブストーリーはまったりしすぎてるから、あんまり好きじゃないんだけど(笑)
――先生の絵はよくアメコミっぽいという評価をされますが、影響を受けた作家や作品はありますか?
面白いもので、アメコミっぽいという評価は日本でしか聞かないんだ。アメリカに行くと、日本風なマンガだと言われる。日本でアメコミっぽいと言われるのは、ただ単純に西洋人が主人公として出てくるからじゃないのかな(笑)
影響を受けたものと言われると、「すべて」というのが正確な答えになると思う。観たものすべてが、僕の作品に影響を与えているんだ。それでも、どうしても何か名前を挙げろと言われたら、ディズニー作品になるかな。手塚治虫先生のアシスタントだった頃に、スタジオ内に置いてあってね。触れる機会が多かったから。
◎勝負はデータをいかに蓄積するか
――先生の描く美しくて強い女性キャラクターたちには、モデルはいるんですか?
とくにいない。基本的に僕は派手なのが好きだから、ラスベガスのショーのような露出の高い衣装を描くことが多いよね。女性の体型については、太ももの肉付きがいいラテン系の女性が好みだ。具体的には、ジェシカ・アルバとかかな。
内面的な部分では、単純に大人の女性が好きなんだ。大人は、感情のままには行動しない。だから、強くて深いキャラクターにならざるを得ない。
悲しいから泣く、楽しいから笑う、というだけじゃただの子供だからね。子供は冒険したりせずに、学校に行けばいいんだよ。退屈かもしれないけど、学校で基礎的なことをきちんと学んで、冒険するのは大人になってからでいい。
COBRAの子供時代のエピソードも退屈になるから描かないんだ(笑)
――先生のアイデアの源はどこにあるんですか?
僕は、自分には特別なひらめきはないと思ってる。物語のパターンってもともと少ないから、同じネタをどうアレンジするか、というのが勝負になるんだよ。となると、アレンジのためのデータをいかに蓄積するか、というのが鍵を握るわけ。
僕がよくやるのは、日常の中で感じたことや気づいたことを、ポストイットに書き留めておく方法だね。書き溜めたものをばらばらにして、ぼんやり眺めてみる。すると、ある瞬間にキーとなるピースが見つかって、そこからすべてがきれいにつながるんだ。もちろん、いくら眺めていても、つながらないときがある。そういうときに無理をしてつなげても、だいたいは描いていて楽しくないので、もう、やめちゃう。やっぱり、描くときは自分が楽しまなきゃダメだよ。
◎小物はShadeデータ集が便利
――マンガ制作にCGを取り入れたのは寺沢先生がはじめてだと思いますが、新しい技法に積極的に挑戦するのはなぜですか?
新し物好き。それに尽きるね。もしかしたら、手塚治虫先生の影響もあるのかもしれない。手塚先生も新し物好きだったから。まだご存命だったら、3DCGを使った表現とか、僕よりも積極的にチャレンジしていたんじゃないかな。
僕の場合は、3DCGだと透過光の表現がきれいにできるので、それが気に入ってる。あとは、デジタルは紙と違って劣化しないのがいいね。絵と吹き出しを別レイヤーにしておけば、多言語で展開するときにも文字の差し替えが楽だし。
――具体的に、3DCGツールをどのような形でマンガ制作に利用していらっしゃるんですか?
人物は、Poserでアタリをとって、手描きすることが多い。複雑なポーズの場合や、頭上から見たシーンのような変わったアングルの絵を描くようなときには、とても重宝しているよ。Shadeは、背景や小物をはじめ、いろいろなものに使っている。さっき話に出た「マジックドール」では、データ集の「神話の森」のデータをたくさん使わせてもらっているよ。
Shadeの形状データは、本当に重宝しているんだ。イーフロンティアさん、もっとたくさんデータ集を出してくれないかな(笑)
◎心が新しければアイデアはいつでも生まれる
――他にどんなソフトがあると便利ですか?
ボタンを押したら完成したマンガが出てくるソフト(笑)
美女が出てきてくれるのでもいいよ。ジェシカ・アルバとか、シャーリーズ・セロンとかが出てきてくれたら最高だね。あ、それだと、仕事にならないか(笑)
いずれにしても、結局のところはソフトはツールでしかない。相性の良し悪しはあっても、使うツールで作品の価値が決まるわけじゃないんだ。心さえ新しければ、新しいアイデアはいつでも生まれる。それが何よりも大切なことだよ。
その意味では、ツールが新しい必要はないんだ。新し物好きだから、何か見かけるとつい試してみたくなっちゃうんだけどね(笑)
――これから創作に挑戦する若い人たちに、何かアドバイスをいただけますか?
盗め。こればっかりは、教えられてなんとかなるものじゃないんだよ。アイデア出しと一緒で、日常の中からいかに気付くか、それが大切なんだ。
手塚治虫先生が「火の鳥」を描いていたときの話なんだけどね。先生に指示された仕事は、原稿をコマ単位でバラバラに切ってしまうことだった。もともと難解なマンガが、コマをバラバラにして編集しなおすことで、とてもわかりやすくなる。一度作ったものをより良くしていくために「捨てる」ことの大切さに気付かされた瞬間だったね。
――最後に、寺沢先生の今後の活動について教えてください。
常に新しい作品に取り組んでいるから、マンガはこれからもどんどん出していくよ。
最近のちょっと面白い話としては、COBRAがフランスで実写映画化される話が出ていることかな。僕が直接関わっているわけじゃないけど、監督がCOBRAの大ファンらしくて、とても楽しみにしているんだ。まだ企画段階らしいから、実際に映画になるまでにはまだたくさんのハードルがあると思うけど、頑張ってほしいな。
フランス人は、本当にCOBRA好きが多いんだよ。なんでだろうね。日本人もフランス人も、ネクラ……いやいや、繊細なところが似てるのかもしれないな(笑)
アーティストプロフィール
寺沢武一
北海道旭川出身。浪人時代に投稿したマンガが入賞したことをきっかけにコミック界入り。 1976年、上京して手塚治虫氏に師事。78年より週刊少年ジャンプにてデビュー作「コブラ」を連載開始。 80年代はじめからPCでの創作に着目し、85年8色のカラーマンガを「BAT」の巻頭で発表。そしてPCの進化に合わせて、92年「タケル」で世界初フルCGマンガを発表。「デジタルマンガ」という名称を生み出した。
関連リンク
寺沢武一公式サイト:http://www.buichi.com/
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